「ギークハウスなう」第18回(Software Design 2011年10月号掲載)
2011年7月、ネットで見つけた面白画像をまとめた本を出版した著者が「著作者が見つからない以上、これはもうみんなのモノ。」と発言して物議を醸したという事件があった(http://www.cyzo.com/2011/07/post_7883.html)。これは、法律的には画像の著作権は元の著作者にあって無断で使用することは著作権の侵害になるが、そもそもネットで複製されまくっているせいで元の著作者が誰だか分からないため文句を言ってこないというだけではある。
この種の本はこれが初めてではなく、同じようなネットからネタを拾った本が既にたくさん出版されていてコンビニなどでよく売っている。さらに元ネタのネットを見てみると、2ちゃんねるのまとめブログには同じような面白画像を集めた記事がたくさん載っている。もちろんブログでも著作権侵害という点では同じなのだが、こちらはあまり問題になっていないようだ。本の出版に反発する人の意見も「出版はダメだがネットでまとめるのはいいだろう」「ネットでまとめても広告を貼らなければOK」など人によってブレがあり、法律的なものよりも「ネットで手に入る無料のモノを利用してお金を稼いでいる」という点に対する感情的な反発が大きい。このようなネットでの無断転載についてはどう扱えばよいのだろうか。
2chまとめブログはネットでの暇潰しのコンテンツとしてすっかり定着してしまった。毎日2ちゃんねるのいろんなスレッドから面白いまとめが制作されているし、ネットで話題のニュースは大体スレッドのまとめが作られるので流行をチェックするのにも便利だ。iPhoneやiPadのアプリでも2chまとめブログの人気の記事を手軽に読めるアプリがよく売れている(2chまとめサイトリーダー [iTunes Store] など)。
編集されていない生の2ちゃんねるを見るのはあまりにも手間がかかりすぎる。毎日大量に立つスレッドのうち面白いものはほんの一握りなので、ずっと2ちゃんねるに貼り付いてそれを探すのは暇人でもないとやってられない。スレッドによっては夜中の数時間だけしか読めずにすぐに落ちてしまうものもある。また、面白いスレッドでも面白い書き込みはそのうちの一部で大多数はそれほど意味のない書き込みだったりするので、ちゃんと面白い部分だけピックアップして強調してくれているまとめブログの方が読みやすかったりする。
また、最近はTwitterの発言を自由にまとめて一つの記事にできるTogetterも人気だがこれも同じような理由だろう。Twitterの発言はその場限りで流れていってしまうので、面白い発言や会話のやりとりがあってもその場で見ていないと後から辿るのが困難だ。またTwitterは複数の発言をまとめて見るのに向いていないため、Togetterで編集すると議論などがとても読みやすくなる。
ネットは広大になりすぎた。ネット上で日々生み出されて流れて行く情報は余りにも膨大で、しかもそのうち95%は特に面白くもないゴミのようなものだから、その中から面白い情報を探すのもコストがかかるようになった。なので、雑誌や新聞の記者が街を歩き回ったりいろんな人に話を聞いて記事を作るのと同じように、ネットにべったり張り付いて膨大な更新情報の中から面白いネタを探して紹介するだけでそれは読者の需要を満たすコンテンツになるのだ。ただここで問題になるのはネットの情報をまとめて記事にする場合、文章であれ画像であれ無断転載で著作権侵害になるケースが多いことだ。
「電車男」(2004年)「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」(2008年)などのベストセラーをはじめとして2ちゃんねるの書き込みをまとめた書籍はたくさん出版されているが、この場合には出版する権利は2ちゃんねるの運営にある。ユーザーは2ちゃんねるに書きこむ際に権利を譲渡することを確認される。
2chまとめブログの場合はそういう許諾を取っている訳ではないので無断転載になるのだが、2ちゃんねるの運営も黙認しているようだし、書き込みをした人がまとめブログに怒ったりすることも(最近では)あまりない。そもそも匿名で書き込む時点で自分の著作権を主張する気がない、という雰囲気ができあがっている。Togetterの場合も、Twitterの規約に「Twitterの書き込みはAPIを使って他の場所で表示されることがある」という規定があることや、書き込みは発言者が自分で消せることもあって、特にユーザー間で問題にはなっていないようだ。2chまとめブログの転載は法律的にはグレーなのだけれど、そのグレーゾーンの上にコンテンツの需要と供給が乗っかって、まとめブログ文化は繁栄している。「ネットにあるものは全てタダで利用できる」というような空気もそれを後押ししている。
TwitterではRetweetという機能で手軽に他人のつぶやきをコピーして紹介することができる。Twitterの強みとして「口コミでの情報の拡散力が凄い」ということがマーケティングなどの文脈でよく言われるけれど、それはRetweetの手軽さによるものが大きい。また、ブログサービスのTumblrにはReblogという機能がある。これもRetweetと同じように他の人の文章や画像をコピーする機能なのだけれど、ReblogはTumblr以外のどのサイトからでもできるためため、ときどき無断転載されたくないサイト運営者との間でトラブルが起こっている。しかし賛否両論あるが、ReblogがTumblrの魅力の一つであることは事実だ。
「コンテンツを自由に複製したり改変したり再配布できることが、社会全体の文化的な豊かさに寄与する」という思想がある。GPLやクリエイティブ・コモンズなどのライセンスはその思想に基づくもので、これらのライセンスを著作者が適用すれば著作物は一定の条件のもとで合法的に複製したり改変したり再配布したりできるようになる。例えばジャーナリストの津田大介さんは自分のTwitter(http://twitter.com/tsuda)にクリエイティブ・コモンズの「表示ー継承」というライセンスを適用することを明記している。
現在のネットでは法律的にグレーな転載が一般化しているけれど、何かのきっかけがあればクリエイティブ・コモンズなどのライセンスを活用した合法的な転載文化が広まるかもしれない。そうはならずに法律的に曖昧なままでなんとなく広まって行く、ってほうがありそうではあるけれど。