Software Design誌連載「ギークハウスなう」第10回(Software Design 2011年2月号掲載)

フィリピンで起業したギーク達の日常に迫る


ギークハウスフィリピン開設

「もしやってみたい人がいたら自由にどうぞ」というポリシーの元にゆるくオープンに運営しているギークハウスプロジェクトだが、2010年10月に初の海外拠点としてギークハウスフィリピンが開設された(ギークハウス初海外! 帰ってきたギークハウスフィリピン。 - 日々、とんは語る。)。なぜフィリピンかというと、WEB+DB PRESS Vol.58でEmacsについての記事を書いたりしている大竹智也(@tomoya)と僕がもともと知り合いで、彼は前からよくギークハウスにも遊びに来ていたのだけど、彼がフィリピンでラングリッチというSkypeを使ったオンライン英語学習のベンチャーを起業。そしてラングリッチのスタッフが住む家をギークハウスフィリピンとして運営し始めたという経緯だ。今回はフィリピン生活の様子についてtomoyaに聞いてみた。

tomoya

ビーチでインターネットをするtomoya


海外で起業するということ

海外に出ることに不安はなかったですか。

「実はギークハウスフィリピンに住む共同経営者の3人のうち、僕を含め2人が初の海外渡航だったんです。最初は治安や病気などいろいろと心配したのですが、滞在して1ヶ月ほど経つとフィリピンのセブ島はとても治安が良くてすっかり安心しました。また、標識やメニューなどは基本英語で書かれてあり、英語だけで生活できるのがとても良いです。心配していたスリや、タクシーで騙されることもなく、みんなフレンドリーですぐに生活に馴染むことができ、今では至るところで『フィリピナイズ』が進んでいます。」

海外で起業するのは日本と違っていろいろ大変だったり面白いことがあったりしたと思いますがどうでしたか。

「まず最初に苦労したのは、日本での融資や支援などに応募する際、海外だということだけで門前払いを受けてしまいました。結局、現在も自己資金のみで運営していて、いまでも資金面の苦労はあります。  次に面白さですが、例えば日本では電話もせずにオフィスビルにいきなりやってきて『ここにオフィス借りたいんだけど?』って言ったら、頭おかしい人に思われそうですよね。でもフィリピンでは、みんな真剣に答えてくれるんです。ちゃんとビルの管理事務所に案内してもらって、しっかりと話を聞かせてもらえます。とある企業のポスターの写真がとても良くて、それを使いたいなぁと思ったことがあるのですが、いきなりその会社に行って『あのポスターの写真が気に入ったから詳細を教えてよ?』って聞いたら、ちゃんと偉い人が出てきて教えてくれるんですよね。なので、フィリピン人と応対するより、日本人と応対する方が気苦労が多いかもしれません。」

起業してからのラングリッチの運営の調子はどんな感じですか。

「7月の半ばくらいにサービスがスタートしたのですが、ネットの知り合いが応援してくれたお陰もあって1ヶ月も経たずに登録者が100人を超えました。最近ではちきりんさんのブログで紹介してもらった効果もあって、開始から4ヶ月半くらいで登録者数は1000人を突破することができました。というと聞こえが良いのですが、実際には会員が増えるとその分新たなPCを購入しなければならず、売上がそのまま新規会員への投資になっています。なので、僕たちは4月に起業して未だに給料がないのが現状です。早くお金が欲しいです。」

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美しいセブの海


フィリピンの生活など

フィリピンで起業して良かったこと、びっくりしたことなど何かあれば。

「第一にやっぱり海外に行けたことでしょうか。海外へ行くきっかけって実際ほとんどの日本人にそんなチャンスがないですよね。まぁ、海外で高い報酬を貰ってというような成功者ではないですけど、単純に面白い経験をしているというだけで今の僕は満足していますし、また、その経験のお陰で、多くの人に興味を持ってもらえるのも僕にとっては大きなプラスです。 びっくりしたことは、オフィスのカンティーン(食堂)の安さでしょうか。コーラがひと瓶9ペソ(約18円)で、食事も一食100円くらいです。あと、フィリピンは暑いのでネクタイしている会社員をほとんど見かけないのですが、日本企業の社員だけは必ずネクタイしていて一目で日本人と分かるのが面白いです。」

フィリピンのIT事情ってどんなもんなんでしょう。

「フィリピンの家庭のインターネットはイーモバイルのような無線アクセスが基本みたいです。キャリアによって速度やエリアに違いがありますが、大手であれば最大で下り3Mbpsくらい出ます。ただし、アクセスの多い時間帯は非常に遅くて、Google検索もままなりません。パソコンは海外からの輸入になるのですが、関税がかかっているため日本で買うよりも高いです。ただ、公衆無線LANの普及については日本よりも圧倒的に進んでいて、カフェでもバーでもレストランでも街の至るところで無料で利用できて便利です。なので、カフェなどではお客の3分の1くらいがノートPCを広げています。もちろんコンセントも利用できます。」

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食事は大盛りでも80ペソ(約160円)


日本とフィリピンの比較

日本よりフィリピンのほうがいいと思ったところってありますか。

「格好に気を使う必要がないところでしょうか。常夏なので服も夏服しかいりませんし、先ほども言ったように会社員であってもネクタイは不要です。また、マッサージが安いので、身体が疲れたときに気軽に行けるのが嬉しいです。あと、個人的には嫌煙の風習がないのが良いです。室内は禁煙、室外は喫煙可能とキッパリ分かれていますし、日本のように肩身の狭い思いをせずに済みます。」

では逆にフィリピンより日本のほうがいいところとは。

「日本は食事がほんとうに美味しいですね。フィリピンで初めてお腹が空いているのに箸が進まないという経験をしました。でも、日本の食事が美味しいのは料理の違いとかではなく、食材や調味料などひとつひとつのレベルが圧倒的に高品質だからだと気付きました。例えば昭和の頃、茹で卵が苦手な子供って多かったと思うんですけど、今の日本で茹で卵が苦手な子供はかなり少なくなってると思うんです。実はそれは卵臭さが要因で、今の日本の卵は臭くないんです。で、フィリピンで食べる茹で卵って臭くて不味いんですね。その時、これ小学生の頃食った卵や!って気付いたんです。」

ノートPCさえ持っていけばネットには不自由しなさそうだし、物価も安いので、僕も今度フィリピンに遊びに行って南国の太陽の下でインターネットしたいなー。

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ギークハウスフィリピンの外観(2010年12月当時)



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